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国連子どもの権利委員会へのカウンターレポート

2017.10.12

【基礎報告書】

子どもたちの「学ぶ権利」を奪う「高校つぶし」の撤回を

 

 

 大阪では、子どもたちの「学ぶ権利」を奪う「高校つぶし」が横行しています。

 2011年4月の選挙で府議会の過半数を占めた「大阪維新の会」によって、いわゆる「教育基本条例」が提案されました。教育の根本原則を否定するような条例案に対し、PTA・父母、教職員、教育行政など、組織や立場を超えた“オール教育現場”の反対世論が大きく高まり、運動が発展しましたが、2012年3月、一定の修正のもと、「教育行政基本条例」「府立学校条例」が可決・成立しました。「府立学校条例」第2条は、府立高校について「入学を志願する者の数が3年連続して定員に満たない高等学校で、その後も改善の見込みがないと認められるものは、再編整備の対象とする」と規定し、「定員割れ」を理由に府立高校を廃校にする方針が明文化されました。

 また、大阪府教育委員会は、2013年11月、「府立高校・大阪市立高校再編整備計画」を策定し、「少子化」を理由に、「平成30年度(=2018年度)までに府立高校・大阪市立高校あわせて7校程度を募集停止する」との方針を示しました。

 これらの「条例」「方針」に基づいて、2014年度から「定員割れ」を理由にした「高校つぶし」が強行され、すでに、府立池田北高校、府立咲洲高校(2016年度から)、府立西淀川高校(2017年度から)、府立大正高校(2018年度から)の4校の募集停止と、府立能勢高校の分校への格下げが決定されています。

 これらの「高校つぶし」は、以下の点から極めて不当です。

 

(1)公立高校の「定員」には「ゆとり」があって当たり前

 そもそも公立高校は、希望するすべての子どもたちに高校教育を保障するために存在しているのであり、その「定員」には「ゆとり」があって当たり前です。「定員に満たない」ことを理由に公立高校を廃校にする「条例」の考え方は、すべての公立高校が「定員オーバー」となる状況を目指すものであり、「学びたくても行き場のない子」を生み出し、子どもたちの「学ぶ権利」を奪うものです。

 とりわけ大阪では、2009年に、私学助成カットに伴う私学授業料値上げを背景として、公立高校が軒並み定員オーバーとなり、夜間定時制の二次募集までが定員オーバーした経験から、公立高校の募集学級数決定においては、「セーフティーネット」として、進学予定者数を上回る「定員」が設定されており、必然的にどこかの学校が「定員割れ」する仕組みとなっています。

 「定員割れ」するような生徒募集を行う一方で、それを「学校の責任」であるかのようにして「高校つぶし」をすすめるのは極めて不当であり、他府県には見られない異常な施策です。

 

(2)「定員割れ」による廃校は、競争教育の弱者を切り捨てるもの

 大阪では、「府立学校条例」によって府立高校の学区が撤廃され、「進学特色校」が設置されるなど、競争を煽る施策がすすめられたことによって、高校の序列化、受験競争の広域化がすすみ、公立・私立を問わず、各高校が「生徒獲得競争」に追い立てられる状況となっています。

 こうした中で、「定員割れ」となる高校は、府の周辺部に位置する不便地の学校や、過酷な受験競争で下位に置かれた子どもたちが進学する学校に集中しています。こうした学校を廃校にすることは、交通不便地に居住する生徒や、経済的困難や家庭環境の問題を背景に低学力となっている生徒、小中学校で勉強につまづいた生徒などの「学ぶ権利」を奪うことに他なりません。

 このことは、すでに募集停止方針が決定された、池田北高校、咲洲高校、西淀川高校、大正高校の、生徒・卒業生・保護者から「中学時代不登校でこの学校しか行けないと言われて進学したが、そこで丁寧に指導してもらい大学にも進学できた。この学校があったから今の自分がある」「この学校がなくなったら弟や妹の行く学校がなくなる。最後の砦の学校をなくさないで欲しい」などの声が上がっていることからも明らかです。

 府教委は、「学び直し」を目的としたエンパワメントスクールを新たに設置し、募集停止した学校が果たしていた役割を担わせると説明していますが、エンパワメントスクールの入試が一般入試に先だつ特別入試として行われているため、志願倍率が軒並み一倍を超え不合格者が出る状況となっており、「セーフティーネット」とはほど遠い状況です。

 受験競争を激化させ、競争の下位に置かれた子どもたちを切り捨てる「高校つぶし」は断じて許せません。

 

(3)「少子化」をチャンスに教育条件の整備こそ行うべき

 府教委は、高校つぶしの根拠を「少子化」への対応と説明していますが、これは理由になりません。大阪の中学卒業者数は、1987年の14万人から2009年の7万人に半減しましたが、府立高校も約20校が統廃合により廃校になりました。その後、中学卒業者数はいったん増加し、2014年をピークに再び減少に転じますが、2013年に府教委が策定した「計画」の完成年度である2018年度においても、2009年の7万人を下回ることはありません。その後も6万5千人程度で下げ止まると推計されており、学校を減らさなければならないほどの生徒数減少はありません。

 一方で、大阪の府立高校の1学年のクラス数は平均で8クラスと、全国平均(6クラス)を上回っており、全国に比べて過大となっています。学校現場からは、「展開教室が足りない」「同学年を校舎の同じ階に配置できない」などの声も上がっています。また、1クラスの学級定員も、国基準の40人に据え置かれており、全国で少人数学級がすすんでいることと比較して過密となっています。

 「少子化」で生徒数が減少することをチャンスと捉え、過大・過密を解消し、教育条件の改善を図ることこそ求められています。こうした声は、府民や保護者からも上がっています。劣悪な教育条件の永続化を前提にした「高校つぶし」は許せません。

 

(4)生徒・卒業生・保護者・地域住民など関係者の声を無視してはならない

 2014年以来の「高校つぶし」に反対して、PTAなど保護者、同窓会など卒業生、生徒、地域住民などが反対の声をあげ、「池田北高校・咲洲高校を守る会」として4万名、「西淀川高校を支える会」として1万5千名、「大阪の高校を守る会」として1万2千名(2015年度)、1万2千名(2016年度)など、のべ8万名近くの反対署名が提出されました。

 こうした関係者の切実な声を踏みにじって「高校つぶし」を強行することは、子どもの最善の利益に反するものであり、撤回すべきです。

 

 

大阪府立高等学校教職員組合

執行委員長 志摩 毅